山林

 徳島県美馬市脇町という所に、山林を所有している。塩江街道を南進して、脇町内に入る前に、夏子ダムがある。その休憩所のトイレ横から、ダム湖に向かって真正面に見える山がそうだ。100ha近くある。主に樹齢が20〜100年の桧林。
 約50年前に、今年93歳になる父が購入した。元あった桧林の他に、新たに数十ha植林した。草刈り、枝打ち、除伐、間伐、伐採、作業道作りと、汗水流して育成してきた。夏であれば、朝の3時に高松を出発し、暗くなるまで働き、帰宅は夜の9時近くになる。蜂に刺され、マムシにも出合う。そうして、一部の山林は、徳島県知事から表彰される程の桧美林に育て上げた。
 当時は、まだ木材価格が高く、森林組合の山人に賃金を払っても採算がとれていた。まさに、宝の山だった。
 でも今は駄目だ。木材価格が下落し、補助金の制度も様変わりしてしまった。安い外材の輸入、国内材の供給過多、桧材の需要の急激な低下などなど。木造住宅が少なくなった上に、人の価値観も変わった。美しい無節の桧より、逆に節ありを好むようになった。無節にするには、小さい時から枝打ちをしてやらなければならない。手間がかかる。だから昔は高値で売れた。今は、特殊な用途を除いて、ほとんど同じ価格で取引されてしまう。
 今や日本の山林は、大規模経営の林家以外、ほとんどの自伐林家は、採算がとれないのが現実だ。しかし、経営的に成り立たなくても、やはり山は宝だと思う。何より地球環境に貢献できる。水資源の確保、酸素の排出、動物たちの住処、川や海の魚への栄養供給。そして、春夏秋冬、四季におりなす美しい風景。
 今、高さ約700mの山頂近くに、長年の小さな夢だった山小屋を作っている。小屋の横には、地元の100年生の桧を利用したテラスも作っている。長さ7mの桧の丸太を3本と、6mの丸太を2本、ダム湖へ向かって突き出した、気宇広大なテラスだ。
 完成したら、友人や子供達を招き、泊まりたい。
 夜空に、キラキラと輝く満天の星。月は十六夜。サワサワと、風に揺れる樹林の音。パチパチはねる焚火の光。美味しい山料理に、うまい酒。
 朝は、鳥の声で目が覚める。南を見れば、遠く連なる四国山脈。正面には大滝山。そして、眼下に、朝霧たなびく曽江谷川。私の孫はこの川を、上から見たまま、セブン川と名付けた。
 昼は、ハンモックを吊って、読書する。桧テラスからは、ダム湖に向かってゴルフ。昼寝をしている猪の頭に命中するかも知れない。
 考えただけで、ドキドキ、ワクワクする。宝の山よ、ありがとう。